私が仕事から帰ると四歳になる娘が妻と私の手を引き、幼稚園で習ったという、ウンバッハダンスを披露してくれた。
娘はメロディを口ずさみ、両手で太腿を叩きながら腰を回したり、飛び跳ねたりしている。
妻は「カワイイ!カワイイ!」と言って気が狂ったかの様に拍手を繰り返し顔を綻ばせる。
こんな不可解な動きをしたダンスのどこが可愛いのか私には理解出来ない。
「パパどお?」
娘から突然のキラーパス。
まずい。気の利いたコメントを言わなければ父としての尊厳を失う事になるかもしれない。
「うん、もうちょっと手の甲の角度を水平にしてさ、腰の動きは、そのままでいいから目線をもう少し高くしてみな。たぶんもっと良くなると思うよ!」
私は何処の何者なので何故こんな発言をしてしまったのか。
妻はこんな私をどう思っているのだろうか。
妻の表情からは何も伺えない。
やはり嫌悪感などは抱くのだろう。
もしかしたら離婚の二文字までもが頭を過っているのかもしれない。
あぁ妻よ、今までありがとう。そしてごめんな、こんな夫で。
あぁ娘よ、今までありがとう。ごめんな、こんな父親で。
お前達にはもう会えないかもしれないが、私はずっとお前達の事を愛し続ける筈だ。養育費も払い続ける筈だ。
そしてこれだけは言っておきたい。
私はお前達が大好きだ。本当は離れたく無いし、ずっと一緒に暮らしていきたい。ダンスも凄く可愛いかった。
丁度、私の眼球から血涙が流れ出た時に次の娘の一言で私は救われた。
「パパこう?」
娘はダンスを修正してくれたのだ。
私は安堵の表情で「カワイイ、カワイイ!」と言って気が狂ったかの様に拍手した。
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