スナイパー

恐らくスナイパーに狙われていると思います。

何の根拠も無いのですが、四六時中そんな気がしてなりません。

夜は不安で眠れず、平均睡眠時間たったの２５分。

合戦時のサムライ並みの緊張感を持って片膝を立てて眠らなくてはなりません。

エブリナイトでレム睡眠。

全てはスナイパーのせいなのです。

頭か心臓を撃ち抜く計画だと思われます。

普段の生活から常に動きまくり狙いを外す為の努力を怠りません。

だって撃ち抜かれたら死んじゃいますもん。

一週間と残りのお弁当

妻が家を出て一週間が過ぎた。

私が出張先から帰宅すると家の中の家財道具が全て消え、代わりに小さな卓袱台だけが残されていた。

その上には、お弁当箱と手紙。

「もう戻ることはありません」

落ち着く為に、ひとまずランバダを踊ってみた。
しかし状況は変わらない、ただ汗ばんだだけだった。

シャワーを浴びながら汗と共に流す妻への罵詈雑言。

小さな卓袱台の前に戻り、お弁当箱に手を延ばしてフタを開いた。
お弁当箱の中に蘇る妻との思い出。

泣いたなぁ。怒ったなぁ。笑ったなぁ。

私は残りの、お弁当を一気に頬張る。

初めて味のしない、お弁当を食べた。


業者が家具を一つ、一つ持ち出していく。

家の中は小さな卓袱台を残し、とうとう空っぽになった。

夫は動揺してランバダを踊ってしまうのだろうか。

そんな姿を想像すると、何だか笑いが込み上げてくる。

そうだ最後にお弁当を作ってあげようか。

どうせなら、無味無臭のお弁当を食べさせよう。

具を敷き詰めながら思い出す夫との生活。

初デート。初キス。プロポーズ。

いけない、お米が塩味になっちゃった。


あの日二人は家具を見に行った。

新生活。期待。不安。

最後に大きな卓袱台を購入。

帰宅後にふたりでお弁当を食べた。

お弁当は残しておこう。

もうそろそろ帰ってくる頃だから。

祖父〜祖母

祖父が性転換手術をして祖母になった。

いま我が家には１度死んだはずの祖母が天国からカムバック。

祖父はコツコツと貯金をしてタイで手術を受けたそうだ。

ある晩に祖父(祖母)以外の家族で緊急ミーティングを開いた。

もうあと少しで人生が終結してしまうので好きにさせてあげようということ、そして祖父も祖母も高齢の為に見分けがつかない現象が起きていて、さほど影響などはないだろうという結論でミーティングは閉会した。

祖母が家族の前を通り抜ける。

「おじいちゃん！」

家族の呼びかけに祖母は振り向かなかった。

祖父は死んだのだ。